研究テーマ

地域スポーツクラブの文化性と社会的効果

村田 真一

総合人間科学コース

専門分野:スポーツ経営学、ハンドボール

キーワード
スポーツクラブ地域文化性公共性

研究の概要

私が取り組んでいる主な研究は、住民によって運営されている地域スポーツクラブの望ましさとはどのような事かについて研究しています。また、地域スポーツクラブでの存在が、その当該地域に対してどのような影響を及ぼしているのかについても研究しています。
「地域スポーツクラブ」とは、聞き慣れた言葉のように思いますが、「具体的にどんなクラブ?」と考えみると、意外に想像しづらいかもしれません。一般的にスポーツクラブと聞いて想像できるものは、学校の部活動や、子供たちが通うサッカークラブ、学生が親しむバレーサークル、一般成人による草野球チームなどでしょう。ここで気付かされることは、「クラブ」と言いながらも「サークル」や「チーム」と表現されるなどして、その実態は非常に多様で曖昧であることです。
まず、スポーツクラブを学術的に整理すると、以下のような性格を併せ持つものとされています。①仲間同士のコミュニケーションが緊密であること、②仲間同士で目標が共有されていること、③加入・脱退が個人の自由意志であること、④継続的なスポーツ活動が行われていること、⑤仲間の貢献意欲によって運営が行われていること、⑥運営においては適切な役割分担がなされていること、のこれらです。
このような条件に照らし合わせてみると、私たちの身近にはスポーツクラブが“在るようで無い?(無いようで在る?)” のかもしれません。

具体的な研究について

私の研究関心は「地域スポーツクラブ」なのですが、繰り返し述べるように、それを明確に位置付けることが難しいのです。ここに結論から示すと、地域スポーツクラブとは、「当該地域の住民によって構成され、住民同士の貢献意欲によって運営されるスポーツクラブ」のことです。これを基本にするならば、私たちがよく目にする中学年代のサッカークラブや一般成人による草野球チームは地域スポーツクラブに該当するのでしょうか?
この例に出した2つのクラブは、仮に、私が定めた地域スポーツクラブを基本とするならば、それに該当しないケースもあります。これらは、あくまでその種目に対して同好する人々の集まりになります。より具体的に言えば、その同好する人々は、同じ居住地域に限らず様々な地域から参集してきます。もし、これら2つの例を地域スポーツクラブと言うのであれば、それは単に、立地上でいう地域(場所)に在るスポーツクラブという意味に過ぎません。但し、立地上に在るスポーツクラブを「地域スポーツクラブ」とすることを否定するものではありません。ここまで述べてきたことは、あくまで、議論を整理するための一作業です。このように、地域スポーツクラブの研究をする前提には、そもそも「地域スポーツクラブ」とは何かについての定義が重要になるのです。このような思考方法の難しさや面白さが、人文社会科学系スポーツ研究の醍醐味です。
さて今日、上述したような地域性や生活による“縁”を重視したスポーツクラブの在り方が注目されています。1990年代後半より「総合型地域スポーツクラブ(以下、総合型クラブと略します)」の育成・支援が国策として進められており、これを対象に実証研究を進めています。私はこれまで、この総合型クラブの研究を大きく2つの視点から実施してきました。一方は、全国の総合型クラブの運営状況とその成果との関連を明らかにした研究であり、全国に既設されている総合型クラブの代表者約800名にアンケート調査をしたものです。他方は、総合型クラブ会員のクラブ満足度と地域生活への影響に関する研究であり、A県内にある4つの総合型クラブの会員約400名にアンケート調査をしたものです。これらの研究から分かったことは以下の通りです。それは、①総合型クラブとして望まれる運営を実現できているクラブは必ずしも多くはなく、当初の目標度と現実の達成度には大きなギャップがあること、②望ましい運営法と会員の運営参加行動には関連性があること、③クラブ生活が充実している会員ほど地域への愛着や関心が高いということ、の主に3点でした。
この他にも、地域スポーツクラブを「持続可能な発展」(sustainable-development)の観点から論及し、今後の在り方についても展望しています。
これからも、地域スポーツクラブの運営実態を明らかにしながら、それが地域社会に対しどのような影響を与えているかについて注目を続けたいと思います。

学びの魅力について

私はスポーツ経営学を専門としていますが、その研究ではいくつもの“共創”が重なり合いながら進行しています。まず第一に、学問同士の共創です。スポーツ経営学は、スポーツ科学の一領域になるので、その隣接分野となるスポーツ社会学やスポーツ心理学、またはコーチング学の知見が有益な情報になります。また、経営学という側面に注目すると、人文社会科学分野の一領域として捉えることができます。ですから私の研究室内には、社会科学に関する書籍が多く積まれていますし、それに関連する教員との議論が欠かせない時間になっています。第二として、社会との共創が挙げられます。私の研究は「社会と対峙する研究」なので、必然的に、大学の外におられる現場の方々との共創において研究が進行します。例えば、アンケート用紙を制作する際には、それに詳しい政策担当者(自治体職員やプロスポーツクラブ職員)との連携が必須です。アンケートに答えていただくためには不特定多数の一般市民の協力が不可欠です。調査後の報告やその後の展望を考慮する際には、地元自治会の方々や現場従事者との議論やフォローアップが重要になります。そして第三として、このような大掛かりな調査・研究を進めていくには、仲間との共創が不可欠です。研究は地道なものなので、一人で進めることには大変な苦労が伴います。そのような時に、常日頃から近くにいる仲間からの学問的アドバイスや励ましが心強いものになります。ですから、各自の研究に対して自身がリーダーとして役割を担いつつも、仲間の研究にはフォロワーとして関り、全員で全員の研究をバックアップする雰囲気作りが大切です。以上のように私の考える学びの魅力とは、物事の真実を探求することと同時に、いくつもの“共創”が芽生えることの豊かさにあるのだと考えています。

今後の展望

スポーツ経営学を専門としている以上、あらゆるスポーツ経営体の健全な運営とは何かについて探求したいと思います。このように考えると、スポーツ経営体には地域スポーツクラブだけではなく、プロスポーツクラブやスポーツ興行組織、または学校部活動など多様な組織体を挙げることができるので、各組織に共通して考えられる経営理論や各組織ならではの独自の経営理論について整理を進めたいと思います。但し、経営学研究では、どうしても「上手くいった好事例」を研究対象にしがちであり、なぜ上手くいかなかったのかの考察が不十分である反省があります。上手くいかなかった事例を対象とすることは、対象者の協力を得られないなどの困難も予想されるのですが、「失敗から学ぶ教訓」が経験的に認められている以上、このようなスタイルの研究にも挑戦していきたいと考えています。
さらに今後は、スポーツ経営体とその当該社会との関係性についても探求を進めたいと思います。経営学研究は対象とする組織内の事象のみを考察範囲に留めがちです。しかし、もともとスポーツ経営体は、そこに属するメンバーはもとより、当該社会に向けた変革や支持を求めて実践を図っているはずです。例えば、今日再注目されている学校運動部活動の運営は、学校の先生が自校生徒のためだけに施しているのでは決してなく、生徒自身や地域指導者・保護者が協働しながら、その地域に属する生徒らのスポーツ環境について全体的視野をもって運営・改革しています。プロスポーツクラブについても同様の考え方に置き換えることができるでしょう。つまり、スポーツ経営体と地域社会の関係性は切っても切れない関係にあり、ここにスポーツの文化性や公共性がうかがえるのです。このように、スポーツと社会の発展が同期するような研究にも挑戦してきたいと考えています。

受験生へのメッセージ

私がスポーツ経営学研究を志したのには、大学時代の部活動経験が基になっています。「自分たちの活動は、指導者や施設・物品も整わず、おまけに部員も少ない。他方で、ある部活動は、指導者や周辺環境にも恵まれ部員も大勢いる。同じ大学なのに、この差は何!?」これが私の研究の原点であったし、こうしたスポーツ界にみられる数々の機会不平等を改善しようと、微力ながら精進しているところです。大学には、いろいろなことが経験できる機会とそれについて考え抜く機会がセットとして十分すぎるほど整っています。それは「時間」「図書」「仲間」「研究者」「実習スペース」など様々です。そしてグローバル共創科学部は、こうした機会を意図的に創り出そうと、異質な学内資源を共有し、そこから新たな知恵やコツを導くためのデザインが整備されています。ご自身にとって関心の高い分野について専門に学び深めると同時に、そのために必ずや重要となる“俯瞰さや総合性”が身につくことでしょう。情報処理や統計解析、外国語といった現代的リテラシーを修得し、情報を“生産する側”として活躍できる皆さんとの出会いを心より楽しみにしています。

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